(2024/03/01)
国立循環器病研究センターの最新研究で、「高さ12センチ以上の枕」を使うと、特発性椎骨動脈解離を起こすリスクが約3倍高くなることがわかりました。
特発性椎骨動脈解離は脳卒中の原因の1つで、首の後ろの血管が裂けてしまうことで脳卒中を引き起こします。枕が高いほど発症割合が高く、硬い枕ほど関連が顕著でした。睡眠中の7~8時間、首の血管が圧迫され続けるわけですから、硬くて高い枕が首の血管を痛めるのは、想像できます。
名付けて「殿様枕症候群」
英語名:ショーグン ピロー シンドローム
ネーミングにインパクトがあるので、枕の正しい知識が広まりそうです。
殿様枕とは、時代劇に出てくる侍が使っている高い枕のこと。筒状の袋の中にそばがらや綿を詰めたものを、木製の台座の上に載せた枕(箱枕)です。江戸時代に男女とも髷を結うようになり、だんだん凝って派手になっていきました。その髪型を維持するために高い枕が必要となり、首を支える箱枕が誕生したのです。健康や寝やすさよりも、髪型を優先した結果誕生した枕です。
ヨーロッパのクッション型の枕が誕生したのも意外なことがきっかけです。
十字軍がアラブへ遠征したとき、当時地域の人々が使っていたものが原型です。ヤギの毛で織った袋に動物の毛や綿を入れた柔らかいクッションを、昼間はくつろぐときに、夜は枕として使っていました。このクッションがヨーロッパに伝わったとき、最初は背もたれにしたり、お尻に敷いていましたが、その後、眠るときに使う専用の枕になったのです。それまでは、丸太を枕にしていたそうです。
枕の歴史には、その土地の風土や時代背景が色濃く反映されています。
箱枕は17-19世紀に使われていましたが、1800年代の随筆に、こんな言葉の記載があります。「寿命三寸楽四寸」これは12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが、9cm程度なら早死にしなくてすむという意味です。
当時の人々が健康よりも流行を優先していたのは、今日に通ずると思いました。7~8時間寝た方がいいとわかっていても、夜ふかしをして睡眠を削ってしまうことに似ている気がします。
15~45歳の脳卒中患者の約10%が特発性椎骨動脈解離が原因となっていて、それが高い枕に起因しているケースが多いといいます。2割近くが感覚障害や麻痺などの後遺症が残ったり、場合によっては命を落とすことさえあるそうです。
若者が高い枕を使う理由は、寝ながらスマホやテレビを見るためです。そのまま寝落ちしてしまうことが、上記のリスクを高めます。ベッドは眠るためだけの場所にして、首の自然なS字カーブを保てるように、スマホやテレビは座った姿勢で見るようにしましょう。
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