(2015/10/01)
忙しくて十分な睡眠時間をとれない、時間はあって存分に寝たいのに眠つきが悪い、眠りが浅い、寝ても疲れがとれないなど、私はこの20年の間に、眠りに悩んでいる沢山の方々の相談を受けてきました。
睡眠不足になると、日中に頭がボンヤリしたり、倦怠感があるだけでなく、高血圧、糖尿病、うつ、がん、脳卒中などの病気にかかりやすいことが実証されています。さらにここ数年で、認知症のリスクも高まることがわかってきました。
認知症と睡眠が関係しているとは、意外に思うかもしれません。しかし、よく考えてみてください。日中フル稼働している大脳は、眠らない限り休むことができません。ものごとを考えたり、状況に合わせて判断したり、感情をコントロールしたり、また手足を動かすのも、すべて脳の指令によるものです。
健康な人でも睡眠不足のときは、集中力や記憶力、判断力、意欲が低下し、もの忘れや事故が起こりやすくなります。これらはまさに認知症の症状に合致します。脳のメンテナンスが不十分な状態が続けば、認知症になるのも当たり前のことです。
基本的なことですが、認知症とは、脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなることによって起こる病気です。認知症の種類はたくさんありますが、約6割が「アルツハイマー型認知症」で、約2割が脳梗塞や脳卒中などの脳の血管の病気によって引き起される「脳血管性認知症」です。
アルツハイマー型認知症の原因は、健康な脳なら排出されるはずの老廃物である、アミロイドβやタウタンパクなどの異常なタンパク質が脳にたまり、脳の神経が壊れて徐々に萎縮していくことだと考えられています。この脳の老廃物を捨てる特別なシステム=脳のゴミ出しは、睡眠中に行われていることがわかってきたのです。
先日、私が司会を務めた「秋の睡眠の日」東京地区の市民公開講座でも、「睡眠と認知症」がテーマでした。その中で印象的だったのは、睡眠健康機構長を務める大川匡子先生の発表で、アミロイドβは認知症発症の20~30年前から貯まり始めるらしいということです。まだ断定できる段階ではないそうですが、40代くらいから、睡眠不足になると急激に貯まり始めるようです。
睡眠時間別の脳内画像を見ましたが、6時間以下の睡眠では、明らかにアミロイドβの沈着が進んでいる様子がわかりました。将来、認知症になるかどうかは、40代からの睡眠習慣がキーポイントになることを覚えておいてください。
なぜ、睡眠中に脳のゴミ出しが行われるのかといえば、睡眠中に体液の流れが変わり、ゴミ出しの通路ができるからです。脳には老廃物を運ぶリンパ管がないのですが、リンパ管の代わりをする「脳脊髄液」が、脳のゴミを素早く出せるように、睡眠に入ると脳細胞が縮んで、その通り道をつくっています。
ハーバード大学医学大学院、チャールズ・チェイスラー氏はこう述べています。
覚醒時の脳は、車であふれるマンハッタンの昼間の道路のような状態だ。ゴミ収集車がゴミを運ぼうにも効率的に動けない。覚醒時のゴミ収集の効率は、睡眠時のたった5%だ。
私は脳内の流れが変わる動画を、NHK(Eテレ)の『スーパープレゼンテーション』という番組で観ました。発表していた神経科学者のジェフ・イリフ氏は、こう述べています。
脳内に満たされている脳脊髄液は、組織の奥深くまで張り巡らされている『血管の外壁』を利用して、老廃物を回収する。 家のキッチンを1カ月間も片づけなかったら、ゴミや汚れがたまり、機能しなくなるのと同様に、もし、脳内の清掃を怠り続けたら、取り返しがつかない。なぜなら、脳のクリーニングは、脳と体の健康と機能を大きく左右するからだ。 今後、脳疾患を予防していくためには、睡眠をおろそかにしないことが重要だ。
認知症の発症に関係すると考えられるのは、睡眠時間だけではなく、睡眠の質とも関係しています。
米国・ワシントン大学の研究グループによると、すでにアミロイドβ(脳のゴミ)の濃度が高い人たちは、ベッドに寝ているわりには眠れている時間が短い、つまり睡眠効率が悪かったそうです。そして、最も睡眠効率が悪かった人は、睡眠の質がよい人の5倍以上、初期のアルツハイマー型認知症を発症する可能性が高いと報告されています。
つまり、覚醒している間の脳はフル稼働していて、その間に脳にはゴミがたまる。そのゴミを掃除するのは、睡眠中。睡眠時間が短すぎたり、眠りの質が悪いと、脳のゴミが蓄積していき、認知症になりやすいということです。
さらに詳しいことや、よく眠るための方法は、10月16日発売の三橋の新刊『脳が若返る快眠の技術』(KADOKAWA)を、ぜひ読んでみてください。あなたの脳が、いつまでもイキイキと健康でありますように!
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